めんどくさくてわからない!?
難易度が少し高い問題の解説していると、「もっと簡単にできる方法を教えて。」と言われることがあります。
例えば、ある生徒さん(仮にA君とします)は、ちょっと複雑な数学の問題を5分くらいじぃ〜っと眺めた後に答えだけ書くような問題の解き方をしていたとします。正解の場合もあり、不正解の場合もあるので、いい加減に答えているのではないのはわかります。不正解となると、再び無言で考えた後に答えだけを書きなおします。何回かこれを繰り返すと、「わからないから教えて。」となります。私としては、どこで間違っているのか、何がわからないのかがわからないために、最初から説明を始めます。すると、ここで「もっと簡単にできる方法を教えて。」と言われるのです。
小学校高学年以降になると、複数のステップを踏んで答えを導くような問題が出てきます。この手の問題では、どのように考えても1回の単純な計算だけで答えが出てくるようなことはありません。一方で、ある種の問題について、塾の「ワザ」とでも称してこんなに簡単に解けるんだよなどということが全くないとも言えません。A君はきっとそのような「ワザ」を求めていたのでしょうが、全ての問題でそんな便利な「ワザ」はありません。もし万が一そのような「ワザ」があったとしても、そんな「ワザ」はほんの一部にしか適用できないので、全ての問題に対処するためにはたくさんの「ワザ」を覚えなければなりません。
また、全て頭の中だけで解いているA君のやり方にも問題があります。問題を解くための一つずつのステップは、単純な足し算などの暗算が可能なことであることが多いです。これらの小さなステップの答えをいくつか組み合わせて最終的な答えが導かれます。すると、単純な計算とはいえ、計算の結果を覚えておいておきながら、次の計算をしていることになります。言い換えると、すべての過程を丸暗記しながら、同時に計算をこなすという、私から見ればとてつもなく非効率で難しいことをしているように見えるのです。さらに、不正解だった場合、間違いを見つけるには自分の記憶だけをたどらなければなりません。たいていの場合は、記憶をたどるくらいだったら最初からやり直すほうがいいと考えてやり直すものの、何を間違えたのかがわからないままでやっても正解にたどり着くことは厳しいと言わざるを得ません。
「頭がいい人は何か特別な方法を知っているので、頭の中でちょっと考えただけで答えを導くことができる」というのは、大きな誤解です。
成績優秀な人(こちらはBさんとします)が問題を解くときは、答えだけでなく、図を書いたり、式の変形など、途中の過程がわかるように書き残しています。途中経過を書き出していると、A君のように途中の結果を覚えておくことに頭を使う必要がありません。したがって、Bさんは、問題の解き方を考えることに集中して頭を使えるのです。また、全ての経過が書かれているので、途中の結果を次の計算に使うときに記憶違いによるミスを防ぐことができます。さらに、記憶の中からより、書いてあるものを見直す方がはるかに間違いを発見しやすいです。全てを書き残しておく方法は大変かもしれませんが、後のことを考えた場合、全てを頭の中で解く方法よりもはるかに効率がよいのです。教える側の立場から見ても、たとえ不正解でも、どこまでは理解できているのかを推測することができます。また、Bさんがどこで間違えたのか、または、何を勘違いしているのかを発見することも可能です。出した答えだけを見てA君が考えている解法を私が推測することははっきり言って不可能です。
そこで途中経過を書くように指導しても、素直に聞き入れてもらえることは残念ながら稀です。では、A君のような生徒さんはなぜ答えだけしか書こうとしないのでしょうか。おそらく、暗算でできそうだから書かなくてもいいだろうという心理が働くためだと私は推測しています。すなわち、A君のような生徒さんは、「書くことがめんどくさい」だけなのです。これが、「めんどくさくてわからない」の正体です。
「わかららない」にはいろいろあります。これについてのコラムは以下を参照ください。
「めんどくさい」には、少なくとも以下の3つの心理が隠れています。
- やることに必要性を見出すことができない
- 自分はすべて正しいと思いたい
- できないことが自分にとって大きな問題とはならない
これら3つの全てを解決しない限り、「めんどくさくてわからない」はなくなりません。すなわち、各個人に最適な方法を提案して誤った認識を修正し、最終的に成績を向上させる地道な努力が必要です。それこそ「めんどくさい」ことですが、教える側がそれを言っていたら実現できません。
「めんどくさくてわからない」は、「わからない」の原因としてかなり多いという実感があります。「急がば回れ」の言葉の通り、途中経過をきちんと書くクセをつけるだけで成績は必ず上がります。ぜひ、心がけてほしいです。